タイトル詐欺と言われそうだが、別に「タイプがS型とN型に分かれた起源を解き明かす!」とか「16タイプには遺伝的にこんな共通点が!」という話ではない。この記事の目的は、いつも何気なく使っている「タイプ」とは元々どういう概念なのか説明することにある。
まず簡単に定義を説明しておくと、MBTIでは「人には一生変わらない真のタイプ(リアルタイプ)がある」とされている。しかし、公式セッションで決まるのはベストフィットタイプで、リアルタイプではない。ベストフィットタイプはリアルタイプかもしれないし、違うかもしれない。つまり、リアルタイプは存在する(ことになっている)が、それを判定する方法は無いので、その時点でしっくりくるタイプをベストフィットとして確定する。なので、「子供の頃は内向的だったけど今は外向的になった。どちらが本来の指向なのか」と悩む人が出てくる。もっとも、ベストフィットは自認なので、自認が変わればタイプが変わることもあり得る。
話をややこしくする要素として、アウト・オブ・プリファレンス(OOP)というものがある。これは環境の要望に応じて、生来の指向とは逆の指向に関するファセットを用いる現象を指す。本来の指向は直観だが、感覚機能を用いる方が有益などの判断で開発した場合の、タイプ内バリエーションを表す。
まあ気になる人は公式に行くなりなんなりして決めればいいと思うが(OOPはベーシック編を受講した後のStepⅡで取り扱っている)、この「タイプは一生変わらない」という考え方は、ユングの見解と異なる。マイヤーズはタイプであることを良いこと(人それぞれの個性)としたが、ユングの考えではタイプとは発達の偏りであり、タイプであることは「未熟」な状態を意味する。そもそも、ユングは「タイプ論」に対する世間の捉え方に不満があった。
「人間をカテゴリに分類することは、心理学的類型論の目的ではありません。それ自体は酷く不毛な仕事です」
「あまりにも多くの読者が、10章(タイプの描写)がタイプ論の本質と目的であり、人間の性格を分類する実用的なガイドを提供するものと勘違いしました。この種の分類は子供っぽい室内ゲームでしかありません。私の類型論は一目で人々にラベルを貼ることを意図したものではありません。類型の用語はこの欲求を満たす以外の役には立たないので、読者にはまず2章と5章を読むことをお勧めします」
「タイプ論の目的は人を分類することではなく、心理学の概念に理論的な枠組みを与えることです」
ここでのポイントは「人間の多様性」ではなく、「心理学的概念の多様性」に貢献しようとした点にある。ユングが言いたかったのは、現実の人間をタイプに分類できる、ということではなく、研究に用いるツールを提供する意図だった。
残念ながら、マイヤーズも「勘違いした読者」の一人だったらしい。彼女は自分が考えたタイプ論(MBTI)についてユングに手紙を書いたが、返信は秘書によるもので、ユングの意志を反映したものではなかったと言われている。マイヤーズは人のタイプは一生変わらず、他の機能が発達してもタイプの全体的な機能バランスは不変とした。これはタイプ=生まれ持った個性と捉えたためだが、ユングの見解では、タイプであることは真の個性を抑圧するものだった。タイプである人間は「集団の中の一人」であり、「個人」ではない。
ユングはこれを内戦のアナロジーで説明している。内戦は一方が勝利し、支配力に変化があると終了する。同様に、人が支配的な機能を発達させると、抑圧される反対の機能が犠牲になる。これは人格に分裂を引き起こし、人を「集合的な状態」に追いやり、個性を抑圧する。
この問題の解決策として、「超越機能」が用いられる。これは対となる機能を統合し、支配的な機能に置き換えることを指す。どうやって統合するかと言うと、支配的な機能の使用を控えることで無意識にシンボルが浮かんでくる。シンボルの意味に注意を払うことによって、超越機能が発達する。このプロセスは何度も繰り返す必要がある。要するに、自分が日常的に繰り返している思考パターンを手放せ、ということだろう。超越機能が発達することで、分裂した意識と無意識が統合される。本来タイプはこの統合の前段階だが、MBTIでは偏った状態を「個性」とした上で、その状態のまま「発達」していく。
もっともユングとMBTIは別の理論で、MBTIのタイプを個性として認める考え方の方が、理想としては美しいし、特にある種の生きづらさを感じている人には心地よいだろう。しかし本当に役に立つのだろうか?参考までに載せておくと、1972年の調査でタイプの概念が役に立ったと回答した分析家は全体の半数だった。では自分に使うなら?前述したように、元々タイプとは個性ではないが、マイヤーズの考える「発達」はタイプの枠組みから逸脱することはない。「タイプ」であることは、バランスの悪い自分に安住して成長を止めてしまうことなのかもしれない。
参考:
ナオミ・L・クエンク著/園田由紀訳「エッセンシャルMBTI」
https://steve.myers.co/journal-analytical-psychology-five-functions/#more-570
https://steve.myers.co/the-misleading-letter-from-jung-on-myers-briggs-typology/#more-677
https://steve.myers.co/can-psychological-type-be-a-barrier-to-individuation/
http://www.compilerpress.ca/Competitiveness/Anno/Anno%20Hillman%20Egal%201.htm
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