スキップしてメイン コンテンツに移動

MBTIとソシオニクスの違い:理論


MBTIとソシオニクス、この二つは理論としての根本から違う。共通しているのはユングを基にした類型論という部分だけであって、根幹にしている概念は別のものである。MBTIはJPという指標を新たに設けた以外は、ユングの概念をそのまま(と言っても違いはあるが)適用している。一方、ソシオニクスの根幹になっているシステムは、ケピンスキーの情報代謝理論である。

この情報代謝とは、簡単に言うと細胞が行うエネルギー代謝を情報に置き換えたものである。人間の精神を細胞に見立て、情報を知覚、処理して世界と相互作用する方法で人を分類する。タイプ間の関係は、この情報代謝が対人間で行われた結果、生じるものとされる。

この情報代謝はMBTIに採用されておらず、両者に共通しているのはユングが提唱した心理機能の概念である。ではユングの概念は各々の理論にどのように取り入れられたのか。

まず前提として、オーシュラが理論の参考にしたのはMBTIではなくユングである。ここで問題になるのは、ユングが心理機能をどのように捉えていたか、ということだが、概要は以下のようになる。

・心理機能の外向と内向は意識と無意識で逆転する。例えば内向思考型ならば主機能は思考(内向・意識)、劣等機能は感情(外向・無意識)となる。二次機能は比較的意識で働くので主機能と同方向、三次機能は比較的無意識で働くので劣等機能と同方向になる傾向がある。

おわかりだろうか?ユングの考える心理機能の外向と内向は意識と無意識を境に切り替わるものであり、MBTIのように交互に切り替わるものではない。

ユングは補助機能の方向を明確に定義しなかった。これはユングにおいて、外向と内向はエネルギーの指向性を指すものであり、別々の機能を指すものではないためだと思われる。補助機能が意識で働く場合は主機能と同方向、無意識で働く場合は逆方向となる。

では、何故MBTIでは現在の形式となったのか。マイヤーズの著書では「あらゆる点で主機能と異なっている」「外向性のはたらきが優勢である場合、最も高度に分化した機能は常に外側に向かって行使されるが、一方、内向性のために働く劣位の機能も存在する」というユングの記述を根拠として、補助機能を主機能と逆向性になるとしている。このため、当初INTP=Ti,Ne,Se,Feだった。その後、定義は変わりINTP=Ti,Ne,Si,Feという現在の形式になったが、これはユングにもそれを基にしたソシオニクスにも関係ない、独自の形式である。さらに言えば、MBTI公式では代替機能の方向性を定めていない。従って、ユングを参考にしたソシオニクスの機能順列を、MBTIと同じとする根拠はなく、比較自体が不可能とも言える。

モデルを見ればわかるが、ユングの法則を無視しているのはソシオニクスも同じである。外向内向を区別せず、意識にも無意識にも全ての要素が配置されている。これはソシオニクスが用いているシステムがユングではなく、情報代謝であることに由来する。この配置は「情報の流れ」を表すために設定された独自のルールであり、情報要素および心理機能はそのシステムに組み込まれた部品として機能する。言葉だけではわかりにくいと思うので、下の図を参照して欲しい。

出典:Wikisocion

これはグレンコが改良したモデルなので、オリジナルと違う部分もあるが、何となくイメージは掴めるだろう。要するに、ユングとMBTIとソシオニクス、これらは同じ概念を扱い、部分的な類似点はあるが、別々の定義、別々のシステムによって機能している

二つの異なるシステムの「順列」を比較することがいかに無意味かわかるだろう。ソシオニクスのモデルやタイプ関係は情報代謝システムに関連したものであり、そのシステムを採用していないMBTIで成立するわけがない。その事実を無視して表面的な順列を一致させたところで、中身は違う。例えば、MBTIの関係性について以下の研究結果がある。

・長期的な関係では、外向/内向の違いが最も大きな衝突を引き起こす。
・一般的に、類似したタイプ同士の満足度が高い。ただし、NT同士、STP同士の満足度は低い(59%と33%)。
・INFP、ENFPとESTJ、ISTJのカップルは最も多い組み合わせだが、満足度はわずか42%だった。

また、ソシオニクスにはソシオニクスで影の心理機能にあたる概念があり、モデルによって機能の数や順列が変わるので、一律に構造を比較することはできない。当たり前だが、各研究者たちは(一部を除き)モデルAとの整合性は考えても、MBTIとの整合性は考えていない。さらに、心理機能(ここで言う心理機能とはTiやNeのことではなく、各スタックで機能する役割を指す)の特徴そのものも、MBTIとは異なっている。

以下は研究者プロコフィエバのコメント。
(MBTIとソシオニクスの機能が持つ特徴は)一部は似ているが、一部は全く違う。特にイドブロックの機能に関して、MBTIとソシオニクスに共通点はない。
長々と全ての機能をここに羅列するつもりはないが、例として劣等機能と暗示機能の違いが挙げられる。

劣等機能:個人にとって最も関心度が低く、この機能に関するスキルはそれ以上に低い。機能の発達は壮年期以降となる傾向がある。大きなストレスの原因、または重要な発展の原因となる可能性がある。思考が主機能である場合、感情は最も優先度が低い機能となる。

暗示機能:主導機能の活動を完全に補完、推進する。この情報によって楽しみ、心理的な落ち着きを得る。不足すると自分で得ようとする。この機能の使用に焦点を合わせ、この側面について環境から受け取った情報を消化しようとする。

つまり「INTPの暗示機能」という言い方は成立せず、単なる誤用である。

また、この例でプロコフィエヴァが比較しているのはISFPとSEIだが、これは一般的にロシアでMBTIとソシオニクスを比較する際に、内向型のjpは切り替わらないことを反映している。

もう一つ言っておきたいのは、機能の捉え方の違いである。おそらくMBTIの印象に引っ張られて、超自我とイドの4機能は「あまり使われない機能」というイメージを持っている方も多いだろうが、それは正確な理解ではない。自我ブロックの4機能は「社会的な機能」、イドブロックの4機能は「個人的な機能」である。

グレンコによる説明で「LII(INTj)は対人スキルを伸ばせるがSは弱い、ILI(INTp)は感覚的なスキルを伸ばせるがFは弱い」というものがある。これは自我ブロックにあり、意識して外的な問題に対処する機能がLIIの場合はFi>Se、ILIの場合はSi>Feであるためだ。訂正:グレンコの説明はモデルG準拠であるため、モデルAとはシステムが異なる。ではMBTIの4機能は「社会的」に使われているのか、「個人的」に使われているのか。それは人によるとしか言えないだろう。

実は、この「社会的」「個人的」の分類と機能の次元によって、処理する情報の中身が変わってくる。長くなるので詳細はまたの機会とするが、例えば脆弱機能(1次元機能、社会的)は経験に基づいてしか適切に使用できず、規範(「一般的にこの場合はこうする」など)を理解していても状況に適応できない。逆に言えば、経験さえすれば対応できるので、経験による対応能力を主導機能と勘違いすることもあり得る。

以上の事からMBTIとソシオニクスはタイプの特徴、4指標や情報要素の定義、システム、心理機能の順列、特徴、使い方、全てにおいて異なるものであり、完全なる別物である。ちなみにロシアにおいてはTiやNeという言い方はされず、シンボルか「構造の論理」などの表現が一般的なので、本当は用語すら一致しない。

数日前にWorld Socionics Societyの代表(ENTP/ILE)がMBTIとソシオニクスについて比較する動画を見たが、対談相手の女性はINFJ/LIEだった。コメント欄やフォーラムで挙げられていた例はESTP/SLI、INTJ/LSI、INTP/EIEなど様々だが、平均して2文字程度ならMBTIと違っていても普通だと思われる。よって、MBTIとソシオニクスを混同することは、正しいタイピングを阻害するだけであり、早急に改めるべきだろう。

「ソシオニクスの用語を使ってMBTIの話をする(またはMBTIの用語を使ってソシオニクスの話をする)」という歪な現状が、早期に改善されることを願う。

参考:http://www.wikisocion.net/en/index.php?title=Information_Metabolism
https://www.ccljapan.com/2019/10/09/%E3%83%A6%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%97%E8%AB%96%E3%81%AE%E5%9F%BA%E7%A4%8E-%E2%91%A3/
https://www.myersbriggs.org/my-mbti-personality-type/understanding-mbti-type-dynamics/the-fourth-or-inferior-function.htm?bhcp=1
http://socionics.ru/typologies/mbti
http://en.socionicasys.org/teorija/po-ermaku/sistemnyj-podhod/tim-model-structure-of-the-psyche
https://en.wikipedia.org/wiki/Jungian_cognitive_functions#Psychological_functions
https://www.truity.com/myers-briggs/compatibility-myers-briggs-personality-type

コメント

このブログの人気の投稿

MBTI:タイプの関係

日本では何故かソシオニクスしかタイプの関係を扱っていないことになっている(?)が、MBTIでもタイプの関係については言及されている。「タイプの関係(相性)」は誰でも思いつくテーマなので当然だが、MBTIの関係論については、あまり有名ではない。理論的にはそこまで緻密なものではないが、参考までに紹介する(メインで取り上げるカーシーについては この記事 を参照)。 初期のカーシーは、真逆のタイプ同士の相性が最も優れていると考えていた。人は自分にないものに惹かれる。つまり、INTPとESFJが互いに惹きつけ合う。ただ、その後の観察から、カーシーは考えを変えたらしい。多くの結婚生活を観察した結果、SJとSP、NFとNTの組み合わせが最も多いことがわかった。どちらの組み合わせも、コミュニケーションの好みは一致している一方、目標を達成する手段は異なる。例えば、SJとSPは共に具体的な対象について話すことを好むが、SJは協調して行動するのに対し、SPは実利を重視して行動する。逆の組み合わせ(SJとNF、SPとNT)では、この関係性は成立しない。このため、SとNの違いが重要とされる。 実はタイプの関係については、マイヤーズも言及している。375組の夫婦を調査したところ、夫婦の77%は二つ以上の指標が一致していた。特にSN指標が一致していることが、タイプを問わず重要だという。マイヤーズは異なるタイプ間の違いを理解するためにMBTIを作ったが、実際は自分に近いタイプを好むらしい。ユングによれば、人のシャドウによる行動は、その人物の行動と見なすべきではない。シャドウを額面通りに受け取らないことが、結婚生活を上手く送る秘訣になる。 話をカーシーに戻すと、彼の理論ではSN以外の指標が逆のカップルに、最も互換性がある。つまり、 ESTP x ISFJ 、 ESFP x I STJ 、 ESFJ x I STP 、 ESTJ x ISFP 、 ENTP x INFJ 、 ENFP x INTJ 、 ENFJ x INTP 、 ENTJ x INFP がベストカップルになる。以下に各々の気質ごとの関係性をまとめた。 <SP:職人> SPは異性と真剣な関係になりにくい。衝動的に人々に惹きつけられ、新たな関係を結ぶ。他の気質よりも外見に気を遣い、性的な経験にも積極的である。抽象的な刺激には心を動かさない...

トライタイプ

<トライタイプとは> 1995年の調査で、人はひとつだけでなく、好ましい順番で使用される三つのエニアグラムタイプを持つことが示された。これらの各タイプは三つのセンター、ヘッド(567)、ハート(234)、ガッツ(891)に存在する。 三つのタイプのうち、支配的なタイプは自我の優先する防衛戦略を表す。しかし、支配的なタイプの戦略が失敗すると、自我は残り二つのタイプの戦略を順番に利用する。支配的なタイプは常に統制者であるため、最終的に核となる戦略に立ち戻る。 <調査方法> 初期の調査から明らかになったことは、質問票やコーチングの際にクライアントによって使用された語彙パターンが、一貫して三つのタイプを中心に自我の戦略を組織したことである。言い換えると、クライアントは個人的な心理経験をさらけ出す際に、三タイプの言語や語彙を利用した。 クライアントは支配的なタイプだけでなく、他の二タイプの核となる恐怖とも共感した。さらに重要なことに、多くの人々は支配的なタイプとラインやウイングで繋がっていないタイプの語を使用した。殆どの理論家は全ての言動が支配的なタイプ、ウイング、ラインに帰するものと考えていたが、クライアントは各センターにおけるタイプの語彙を何度も使用したため、これはトライタイプの発見において重要な特徴である。 語彙分類は質問票の単語選択を統計的に実証し、各タイプが母語、年齢、性別、教育、国籍や人種を問わず独自の語彙を使用するという仮説を確認するために使用される。さらに、支配的な本能型の言語と同様に、トライタイプを構成する3タイプの語彙を使用することも確認する。このため、タイピングは5つの段階を経る。1)質問票。2)エニアカードを用いたテスト。3)本能型のテスト。4)語彙分類。5)コーチング。 出典: https://www.katherinefauvre.com/tritype/ <ウイングとライン> 調査は人がウイングとライン(エニアグラム図で点同士を結ぶ線)を利用することを示したが、これらのウイングとラインは、個別に使用される戦略に留まらない。何故、メインタイプと関連のない根源的な恐怖、語彙、動機や望みが報告されたのか?トライタイプにウイングタイプや統合・退行ラインに沿ったタイプが含まれると、そのタイプが活用されることが極めて多い。 例えば、トライタイプに3と6を持つ...

MBTIとソシオニクスの違い:心理機能と情報要素

前回 はJ/Pの違いについて触れたが、MBTIとソシオニクスは4指標の定義、心理機能(情報要素)の定義においても異なっている。以下はWorld Socionics Societyが挙げた両者の違いとなる。 ①各指標が意味するもの ・MBTIのI / Eは「人と関わってエネルギーを得るか」だが、ソシオニクスではFに依存する。外向T型は交流をあまり必要とせず、内向F型は人と関わることを好む。 ・MBTIのN / SはN型のみが創造力・発想力に富むというバイアスがかかっており、S型は過小評価されている。ソシオニクスでは両者が得意とする領域で公平に取り扱われる。 ・MBTIのT / Fは「厳しさ・優しさ」を表すが、ソシオニクスでは競争心・攻撃性・厳しさはSeに依存する。よってソシオニクスにおけるSe優勢タイプの多くが、MBTIではT型になる。ソシオニクスのFは親切心・寛大さではなく、対人能力を表す。よってSe-Fタイプは社会的に優位に立つためFを利用する。 ・MBTIのJ / Pは「組織力・計画性の有無」を表すが、ソシオニクスではTに依存する。よって多くのF型がMBTIでPと判定される。ソシオニクスの合理・非合理は物事が「どうであるべきか(T / F)」「どうであるか(N / S)」というアプローチの取り方に焦点を当てる。EIE(ENFj)やEII(INFj)は計画性に欠ける可能性があるが、「自分の感情は正しい」「他人はこのように感じるべきだ」という明確な見解を持つタイプとなる。 ※なお、わかりやすくするために特徴を挙げたが、詳細は各指標に関する記事で確認して欲しい。 ②MBTIの認知機能とソシオニクスのIE ・MBTIのSe(現在を生きる、快楽を求める、美的感覚)=ソシオニクスのSi ・MBTIのSi(記憶、歴史、比較、時間感覚)=ソシオニクスのNi ・MBTIのSi(ルールを守る)=ソシオニクスのTi ・MBTIのTi(物事の仕組みを解明する)=ソシオニクスのTe ・MBTIのTe(権威、指揮、上下関係)=ソシオニクスのSe ・MBTIのFi(感情の状態)=ソシオニクスのFe ・MBTIのFe(人間関係、社会的に適切な態度)=ソシオニクスのFi ※ソシオニクスについては「 情報要素 」を参照。 ③グループ分け ・MBTI...